視点・実践の変化
向 雅生
福岡県
2016年カナダの荒野でオオカミと山火事を追跡調査に参加。理科教育のアプローチが身近な環境問題をテーマにしたESDからSDGsの視点も含めた環境探究教育へと変化。
- 簡単にプロフィールを教えてください。
- 東京理科大学大学院修了後、東京大学大学院などで研究を続け、その後、オーストラリアでの日本語教師などの経験を経て教職につきました。プログラム参加後、都立の中・高一貫校を経て、2020年4月から地元である福岡県に戻り、県立高校で教鞭を取っています。現在、社会人大学院生として理科教育に関する博士号取得に挑戦中です。
- 環境教育の実践において変化はありましたか?
- プログラム参加当時、身近な環境問題として、ヒートアイランド現象が生態系へ与える影響を解明するため、「セミの鳴き声の研究」を行い、学校現場でESDにつなげていました。参加後は、東京都研究開発委員として、「探究学習のPC×(クロス)Rサイクル」、「ルーブリックによる評価シート」などの教材を開発した経験から、SDGsを考慮した「カナダの国立公園の生態系の再生」をテーマとしてエレベーターピッチや探究マンダラートなどを用いた環境探究教育に関する授業や、「カナダと東京での三日月の見え方の違い」についての手作り天体模型を用いたアクティブラーニング型の授業を開発しました。
- なにか周囲に及ぼしたインパクトを物語る事柄があれば教えてください。
- 最も大きい成果は、有志で立ち上げた「環境探究学研究会」です。石田秀輝先生に会長をお願いし、隔月で研究会を開き、花王・教員フェローシッププログラムの参加者を中心に、大学の研究者を交えて、環境問題をベース にした探究学習の教材開発や教育現場での実践など活発な活動を行っています。
- 特筆すべきことや、今でも忘れられない出来事などがあれば教えてください。
- 特に印象に残っているのは、研究者でも3年間目撃していないという野生のオオカミに遭遇できたことと参加メンバーのブラックフット族(カナダ先住民)の方と交流を深められたことです。夕食後にお互いの文化について語らい、日本の氏名と同様に、部族名に自然と関連した意味があるなど、自然崇拝的な考えやアニミズムといった日本の文化との類似点やシンパシーを感じてとても驚きました。
- その他に、変化したことや得られた成果はありましたか?
- 環境探究教育の一環として、「探究学習のPC×(クロス)Rサイクル」などを活用した結果、学会発表や科学コンテストなどで、多くの成果が上げることができました。特に、「セミの鳴き声の研究」では、坊ちゃん科学賞(東京理科大学)入賞、サイエンスキャッスル2019 関東大会ICU賞、SDGs探究アワード2019優秀賞などを受賞することができました。また、企業と連携して行った「節足動物に蓄積する金属元素の研究」では、日本動物学会大阪大会やサイエンスキャッスルシンガポール大会やX線分析討論会で発表しました。それが、「X 線分析顕微鏡を用いた甲虫のオオアゴに蓄積する金属元素の測定 (Measurement of Metal Elements Accumulating in the Mandibles of the Beetles (coleoptera) Using an X-ray Analytical Microscope)」など、学会誌「X線分析の進歩」に高校生が執筆した学術論文(査読あり)が掲載されました。